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2012年3月3日土曜日

陽だまりの彼女 越谷オサム

幼馴染の真緒と10年ぶりに再開を果たす僕。
かつての彼女は「学年有数のバカ」と呼ばれ、冴えないイジメられっ子だったのだが、再会した彼女はモテ系のデキる女へと大変身を遂げていた。
急速に関係が近づき、過去の思い出と共に彼女と幸せの時を過ごしていくのだが・・・
前半は再会した彼女との距離が近づいていく中で、中学生のころの思い出が描かれていく。過去の彼女と現在の彼女のあまりの違いに、この再開までの間に彼女になにがあったのか、といろいろと想像させられてしまう。
中学のとき、転入してきた真緒は、はじめのうちはその整った顔立ちのおかげでみんなから親しくされていたが、やがて勉強の出来なさ加減が露呈してからはみんなから笑いのネタに、そしてやがてイジメの対象になっていく。
転入してきてすぐに、なぜか真緒になつかれてしまった「僕」は彼女に勉強を教えたりいろんな話をしたり、そしてイジメから真緒を救ったりすることでやはりクラスのみんなからは遠ざけられてしまう。
クラスから除者扱いされることに嫌な思いをしながらも、真緒を放っておけず、そしてそんな自分が嫌ではないことにも気づきながら年頃の男の子特有の抵抗感をしめしていく。
やがて「僕」は、真緒に対する自分の形定まらない気持ちを整理できないまま、父親の仕事の都合で転校することになり、真緒ともそれっきりになってしまう。
そして真緒を忘れるため費やしてきた時間が、10年後突然現れた真緒本人によってあっさりと覆されてしまうのだ。
急速に二人の間が縮まり、あっというまに二人は駆け落ち同然で結婚までしてしまう。
そして読む方がこっ恥ずかしくなるくらいにラブラブの新婚生活が描かれていく。
しかし、タイトルにある陽だまりのような新婚生活にときおり挿入される真緒の過去のことが、行く先に不安を感じさせる。
私はもうこういった話は非常にだめだ、弱い!
まず、男の子はかなりそうなのだと思うが、こうしたシチュエーションには弱すぎなのだ。男の子の気持ちの中には、彼女には(彼女がいれば)こうしてあげたいな、と思うことがぎっしりつまっているのだ。
で、それだけなら「あぁ、こんなのいいな」と思うだけなのだが、彼らがラブラブで、幸せなら幸せなほどその背後に迫る得体のしれない不安感に心をぎゅっと鷲掴みされてしまうのだ。その先に待っている悲しみは、今の幸せが大きければ大きいほど最悪の状態となってやって来ると思うから・・・
きっとこれを読んだ人の中では、なんだこれは・・・って思う人も少なくないと思う。
物語としては淡々と彼らの結婚生活が描写されていくだけなのだから。
そしてそのオチも・・・
いろいろと伏線が張ってあるけれど、それらはすぐにわかってしまうようなすごい仕掛けでもなんでもなく、彼女の秘密は割合簡単にわかってしまうのだけれど、それでもそのことはたいしたことではなく、それよりも「僕」と真緒の二人が恋するその思いがいっぱいにつまったそのことだけで、私にはこの物語の幸福感と切なさと、そしてちょっとひねったハッピーエンドに満足することができた。
軽く読めるけれど、いい寓話だと思う。

ちなみに、音楽を聞きながら読んでいたら最後の十数ページになって、偶然レミオロメンの『3月9日』が流れてきて、その雰囲気のぴったり具合に危うく涙しそうになったのは余談・・・

ここを読む人のために、オチはさすがに書けないなぁ・・・

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