今回は図書館内での痴漢行為とその犯人の追及、郁を含めた図書隊員の昇任試験に関わるドタバタ、有名若手俳優のインタビューがきっかけで起きる差別的用語についての攻防、そして地方都市で開催される美術展の挑発的な最優秀作品の展示をめぐる武力的攻防戦とその背景にある図書特殊部隊の苦労と活躍を描いている。
そしてそのいくつかのエピソードの中に、憧れの王子様の正体を知ってしまった笠原郁の心の揺れと堂上とのぎくしゃくした関係、レギュラーメンバーそれぞれの人間関係の進展具合も描かれていく。
特に痴漢事件を扱った第1章の「王子様、卒業」と昇任試験が行われるまでを描いた第2章のずばり「昇任試験、来たる」は各隊員の人となりをこれまで以上に深く掘り下げている章になっていると思う。
そして第3章の「ねじれたコトバ」
問題の差別的用語だが、件の若手俳優、香坂大地の生い立ちをインタビューしていて祖父母に育てられたという事実が語られる。その話の中で祖父の職業が出てくるのだが、彼は祖父の職業を「床屋」と話す。そう、この「床屋」が差別的用語に当たるというのだ。
実際この「床屋」という言葉は放送禁止用語に載っているそうで、多くの「床屋さん」はその事実を知らないらしい。
物語の中ではメディア良化法の検閲に造反語としてひっかかるためそのままの言葉では本を取り上げられるのだ。
当然インタビューした雑誌は「床屋」という言葉を「理容師」「散髪屋さん」に変更する。
そしてそのことで香坂側は出版延期の申し入れが出される。
香坂は、祖父が、そして彼が慣れ親しんだ「床屋さん」という言葉を変えることは許さないというのだ。
この差別的用語をめぐる問題はかなり突飛な方法で解決していくのだがそれは本書を読んでもらうとして・・・
「床屋」という言葉が実際に放送禁止用語になっているというのはホントに驚きだ。
言葉の語源か歴史的になにか問題となることがあるのだろうけれど、ほとんどの人が「床屋」という言葉を使うときに差別的意味では使用していないと思う。
というかその床屋さん自体がそう言われて差別されたと苦しんでいるのか???
本書の中にも出てくるが、誰も差別することもされることも感じていないのにそれをことさらに差別だと決めつけることは、差別的用語だとすること自体が差別につながる、差別をあえて作り出していることになるのだ。
作者の有川浩が小説を書いているときに禁止用語にひっかかって文言を変えたことがあるそうだが、思うに何が差別につながるのかというと言葉ではなく、結局人が誰かなり何かを差別する気持ちなのだろうと思う。差別的用語を使わなくても差別する言葉・文章なんていくらでも書くことが出来るのだ。
第4章は「里帰り、勃発 -茨城県展警備-」
笠原郁の実家近くで美術県展が行われ、センセーショナルな作品が最優秀作品に選ばれる。
メディア良化委員会はこの作品を問題視し回収しようと動きだし図書隊もそれを阻止しようと出動する。
これは表現の自由を守る戦いの話だ。
だがその自由を守る方法は一つではない、ということもこの話の中に盛り込んでいる。
図書隊は武力には武力をもって図書館の自由、表現の自由を守ろうとする。
しかしこの話の中には武力を一切用いず、いわゆる「話せばわかる」という方法で相手に接しようとする団体が登場する。
この団体は結局最終的には逃げ出してしまうのだが、確かに武力を用いることが必ずしも解決に至る道になりえないことも考えさせられる。
殴られたら殴り返すのか・・・
殴られたら相手に語りかけて和解の努力をしていくのか・・・
殴られる前に相手を説得するのか・・・
いずれにせよ自分たちが信じる方法をやり続け、最後まで貫くには「覚悟」がいるのだ。
覚悟なくしては武力を使い続けることも、その武力を使わずにいくことも殴られるまで手を出さないことも不可能なのだ。
限定された場所でルールに則った中で戦闘を行っている良化特務機関や図書隊。それはまるでスポーツのゲームのようにも思える。
しかしそうだとしても彼らもそれぞれ信じるもののために「覚悟」を持って戦っているのだ。
そう、彼らが行っているのは単なるスポーツのゲームではなく、「死」というものが常に付きまとう戦争なのだ。
いろいろなものの見方、考え方がある中で翻弄されながらも自分たちの信じるものを貫こうとする図書隊。
この先、彼らにはなにが待っているのか。
そして堂上と笠原郁との関係はどうなっていくのか。
次が楽しみだ。
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