でも執着心はなく、物事を諦観するかのような登場人物。
普段は自分自身でも感じられないけれど、街中に流れている音楽や何かの出来事、そして誰かのしぐさにその当時の情景がありありと思い出され、胸の奥がほんの少し苦しくなる。
グラスホッパー
アヒルと鴨のコインロッカー
そしてこのゴールデンスランバー等々・・・
伊坂幸太郎の小説といえばそんな雰囲気一杯の作品が多いように思う。
現実にはない首相公選制が実施されている日本で、その公選制で選ばれた首相がラジコン爆弾によって爆殺されてしまう。
そして用意周到に準備され選ばれていたある男がすでに犯人として仕立て上げられてる。
国家元首の暗殺と言えば必ず出てくるのがアメリカ合衆国第35代大統領、ジョン・F・ケネディの暗殺事件だ。
ケネディ暗殺についてもいろいろな矛盾点や噂が取りざたされている。そしてその犯人であるオズワルドについても多くのことがいまだに言われ続けている。ケネディ暗殺はオズワルド個人の犯行ではなく、政府内あるいはなにか大きな力によって行われたのだと。
そう、この『ゴールデンスランバー』はそのJFK暗殺事件を下敷きに書かれた物語なのだ。
この物語の主人公、青柳雅春を犯人に仕立てようとする国家権力の恐ろしさ
初めに犯人ありきで事前に少しずつ犯人としての印象付けるためのちょっとした事件・出来事を用意周到に演出する。
権力・影響力のある国家やメディア、そしてそこに属する人間が発表・発言したことは、たとえそれが嘘でも本当のこととして人々を誘導できてしまうのだ。
何年か前、たまたま見たテレビでやっていた『相棒』
ストーリーは忘れてしまったのだがその回はちょっとコミカルな雰囲気で、事件がすべてが解決したところから話が始まる構成になっていた。
初めに出てきた意味があまりわからない事柄のひとつひとつが、時間をさかのぼっていくとジグソーパズルのピースがはまるべきところにはまっていくように意味のあるものに変わっていく。
そして遡った時間の最後、事件の始まりまで戻ると全ての意味が解明するという凝った作りになっていてかなり面白かった記憶がある。
『ゴールデンスランバー』もそれに近い構成で書かれている。
全体は5部構成になっていて、主人公の青柳雅春が事件に巻き込まれるありさまが描かれ一番のボリュームである第4部がメインにあたる。そして初めの第1部から第3部までに首相暗殺事件の直前と20年後を別の人物目線で描かれており、その中に多くの伏線が張り巡らされている。
第1から3部で提示された事柄が第4部の中で次々納得させられていき、そして第5部の最後に爽快な、そしてちょっぴり寂しいラストが待っているのだ。
かつて そこには
故郷へと続く道があった
かつて そこには
家へと続く道があった
おやすみ かわいい子 泣かないで
子守唄をうたってあげよう
黄金の眠りがおまえの瞳を満たし
微笑がおまえの目を覚ます
おやすみ かわいい子 泣かないで
子守唄をうたってあげよう
かつて そこには
故郷へと続く道があった
かつて そこには
家へと続く道があった
おやすみ かわいい子 泣かないで
子守唄をうたってあげよう
故郷へと続く道があった
かつて そこには
家へと続く道があった
おやすみ かわいい子 泣かないで
子守唄をうたってあげよう
黄金の眠りがおまえの瞳を満たし
微笑がおまえの目を覚ます
おやすみ かわいい子 泣かないで
子守唄をうたってあげよう
かつて そこには
故郷へと続く道があった
かつて そこには
家へと続く道があった
おやすみ かわいい子 泣かないで
子守唄をうたってあげよう
タイトルの『ゴールデンスランバー』はビートルズの作品で解散前の最後のアルバム『アビイ・ロード』に収録されている曲だ。
この曲がこの物語全体の雰囲気を表している。読んでいる間中ずっと頭の中でこの曲が流れていて物語にうっすら漂う喪失感をより強いものにしていた。
この曲がこの物語全体の雰囲気を表している。読んでいる間中ずっと頭の中でこの曲が流れていて物語にうっすら漂う喪失感をより強いものにしていた。
物語の中で『アビイ・ロード』の制作裏話が語られる。
ポールマッカートニーが、解散に向かっていくのをなんとかみんなの気持ちを元に戻そうと一生懸命になって『ゴールデンスランバー』をメドレーとして録音するけれど、みんなの心を元に戻すことはもうできない。
英語のタイトルがつけられており"A Memory"とある。
思い出・記憶というそのタイトルが象徴されるようにこの物語は人々の、そしてセキュリティポッドの様々な記憶が事を左右していく。
青柳雅春を犯人に仕立てるための様々な仕掛けは人々に彼の犯人となりえる一面を記憶させておくためのもの。
警察が青柳雅春が犯人と発表した時点でその記憶の時限爆弾が起爆する。人々は次々と青柳雅春の負の一面を思い出すことになる。
そして仙台中に設置されている防犯を目的とした監視装置のセキュリティポッド。これは機械だが青柳雅春の行動を文字通りメモリーに記録していく。
そんな追い込まれていく青柳雅春を救うのが、これも彼の学生時代そして運送会社勤務時代の記憶なのだ。
そしてその記憶のつながりが人々をつなげ昔の友人達もまた彼を救うために動くことになる。
青柳を助けるのが大学時代の友人、同じ青少年食文化研究会(ファストフード研究会)にいた森田森吾・樋口晴子・小野一夫、運送会社時代の先輩 岩崎英二郎、花火師の轟静雄・・・
彼らは青柳雅春の記憶の中にしっかりと居続けており、そして彼らも、彼らの中の青柳雅春が決して暗殺事件を起こすような人間ではないということを記憶し理解しているから後先を考えずに助けようとするのだ。
過去の自分たちにはもう戻れないけれど、人と人とのつながりは決して切れることなく瞬時に「あの時」の気持ちにはもどることが出来るのだ。
ただしそれは過ぎ去った時間分を差し引いた形にはなるけれど・・・
喪失感と連帯感と懐旧の念
切なさの残る読後感だが心地良さもあり悪い気分ではない。
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