ある日突然、ひとつの町からそこに住むすべての住民が消え去ってしまう。
原因もなにもわからないまま繰り返される町の消滅。
そんな消滅によって大切な誰かを失った者たちは悲しむことすら禁じられたまま、どう生きていくのか。
少しズレた世界を描いた、不思議な雰囲気の物語である。
冒頭、あらたな「消滅」を図ろうとする「町」に対抗する管理局の作戦展開の場面から始まる。
読み手はいきなり訳のわからない世界にポンと放り出されるのだが、これは最後まで読み進めば、「あぁ、そうしてこれがあるのか。ようやくここまでこれたんだな」
と、納得することが出来る。
「プロローグ、そしてエピローグ」とあるのも理解できる。
登場人物は、町の「消滅」によって心に何らかの傷を負った人、もしくはそうした人物に関係する人たちだ。
正直、最初はまったくなんのことやら、って感じで戸惑うことばかりだった。
作中で語られる「町」のこと(意識がある?)も結局最後までなんのことやらわからないままなのだ。
しかも最初日本のこの現実世界を舞台に架空の設定を持ち込んでいるものだと思っていたら、「高射砲塔」なんて言葉が普通にサラリと出てきたり、町単位から範囲を広げていくとまったく違う世界がそこに存在しており、それがあまりちゃんとした説明もなく、それとなく世界観を匂わせているだけなのだ。
ただその世界観に少し違和感を感じてしまった。
日本っぽい世界で日本人のような名前の残された人たちが葛藤している場面は素直に彼らに感情移入できていたのだ。
でも何度か別の国(?)を訪れたとき、なんだか答えというか道筋を作らんがためにその場面を設定しました的な感じが私には思えた。
確かにカメラマンの彼を追って、その消息を訪ねていくことがおかしいと思うわけではない。
ただ、彼が異国の特殊な生活様式を持つ者という設定が本当に必要だったのかな、と思うのだ。
桂子さんと脇坂さんの絆、そしてその異国にある特殊な音(ね)を導く共鳴士の能力を受け継ぐ文化。
消えた脇坂さんとそれを追う桂子さん、その二人の気持ちは伝わってきたのだが、どうにもその世界観だけが受け入れられなかった。それじゃなくても、って思ってしまった。
奏楽の、古奏器の音が私には響かなかったということか。
それでも、別のパートの話では私にも受け入れられる世界で、彼らの気持ちが十分沁みてきた。
特にエピソード4の「終(つい)の響(おとな)い」では、ちょうど電車の中で読んでいて、あやうく
ポロッと涙しそうになってしまった。
一人の人間から違う人格を分離してそれぞれ別の人間とする技術によって生まれた「分離者」。
そうした分離者の「別体」の女性と結婚した英明は町の「消滅」によってその妻を失う。
心にぽっかり空洞が出来てしまった英明は、妻の「本体」に会いに行くことにする。
従来、分離したどちらかが死んでしまうと片側も同じように死ぬのだが、「本体」の女性はまだ生きているのだ。
そして英明はその女性と会う。
顔形は妻にそっくりなのだが、別人格のためやはり仕草や性格などが微妙に違っている。
でも英明はどうしてもそこに妻を重ねあわせて見てしまう。
やがて英明は彼女と一緒に住むようになる。
で、そのとき彼女は問う。
「あなたは、私のことを好きになってしまう?」
そして彼女は好きになっても構わないがあくまで英明の妻の代わりとして、と頼む。
それは、彼女が英明を再び大切な人を失う悲しみを味あわせたくないため。
そう、やはり分離者の一方が町によって失われると、もう一方もやがて町に取り込まれてしまうのだ。
このパートは悲しけれど、最後は希望のある終わり方をする。
このパートを読んでいて、この町による「消滅」は、「死」と同じ事なんだろうと思う。
「消滅」がこれまでどんなことをしても防げず、あっけなく、何の予告もなく発生し、人々が消え去っていくように、「死」もまた、その多くは何の予告もなく大切な人を目の前から奪っていくのだ。
分離者の「本体」の彼女がいつか町に取り込まれることがわかっていて過ごす毎日は、「死」がいつか誰にでもやってくるのと同じなのだ。
ただ、「死」の多くは緩慢に迫ってくる、というだけのことだ。
そう思えばこの物語は、大切な人の「死」に遭遇し、傷付きそのことに執着してしまうのだけれど、やがてそこから歩き出して再生していく話だともいえる。
ちょっと風変わりな設定だけど、乾いたような文体と全編に漂う喪失感はちょっと気に入ってしまった。
1 件のコメント:
町が消えたり二階扉をつけたり。
なんというか、比較的狭いコミュニティの中で、不思議なもめ事が起きる。
三崎さんはそんな作品が多い気がしますねぇ。
ところで三崎さん、
2014年~2015年が当面のピークになるそうです。
http://www.birthday-energy.co.jp
「如才ない開拓者」であり、
「常識の通用しない精神状態」をお持ちだとか(笑)。
思えば偶然手に取った「バスジャック」はショックでした。
最初の二階扉の話、なんで二階なのか分からないまま、
不気味な終わり方でしたけど、そのあとの話から
ドンドン引き込まれてしまいました。
魅力的な作家さんですね~。
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