ページ

2011年10月24日月曜日

塩の街 有川浩

突如飛来した塩の結晶体によって人々が塩化していく世界で必死に生き抜いていこうとする男女の姿を描いた物語。
有川浩のデビュー作で、ありえない設定に身近な恋愛モノを織り込んでの内容は、『図書館戦争』の原型がすでに出来ていたと言えなくもないか。



ある日突然、東京湾に飛来した塩の結晶体。
それを境に徐々に人々が塩化、塩の塊に変わっていく。そのタイミングに結晶体が原因ではないかと疑うが、初期段階ではその因果関係は判明しない。そして塩化の治療方法も全く見つからない。

やがて結晶体は世界各地に飛来し始める。
世界中の人々が塩化していき人類は滅亡してしまうのか。


そんな世界の片隅。
元自衛隊パイロットの秋庭と女子高生だった真奈。
偶然だが彼らには必然の出会いで一緒に行動することになる。
真奈の窮地を助けた秋庭は、その後も彼女のことを守っていくことになる。
そうして無法な暴力から真奈を守っている秋庭もまた、力ではないものによって真奈に守られており、それを秋庭自身はしっかり感じている。

彼らの気持ちが助け助けられる関係のものではなく、男と女として恋愛感情に発展していくことは必然だったのだろう。

だけど、加速度的に塩化する人々が増えていく中で彼らの恋愛は遅々として進まない。


極限状態の中に投げ込まれた男女がゆっくりだけど確実に成就に向かって進んでいく恋の話は『図書館戦争』とまったく同じパターンだ。
男女どちらも相手のことをこれ以上ないくらい思いやりいたわりあっているのだけれど、恋に不器用で相手に気持ちをきちんと伝えられないまま時間だけが過ぎていってしまう。

やがて二人に生死にかかわるような問題が起き、その状況の中で困難を乗り越えていくことで彼らはその思いを昇華していく。


きっと相手も自分のことを思ってくれているはずだが、確証が得られないし自らそれを確かめる勇気もなく、歯がゆいやりとりが続く。

確かめることは簡単かもしれない。
でも、そうすることで今の状況も無くしてしまうかもしれない、というリスクを考えると踏み切ることが出来ないでいるのだ。

そうしたところが読み手の共感を得て、感情移入しやすいところなのかもしれない。


ただ、この秋庭と真奈や堂上・笠原も相手の気持ちに確証が得られたとき、何人もどんな困難も彼らを引き裂くことのできない気持ちでつながるのだ。


そう、世界は愛で救うことができるのだ。

0 件のコメント: